統計のお話(効果量について)

先日,大学時代の恩師に心理統計を教えてもらいました。
これまでも統計は研究する道具として使ってきましたが,統計の手法は日々更新されるので,新しい方法を教えてもらったり,何となく理解して使っていた部分をもう少しきちんと理解して使えるようになるためにいろいろなことを聞きました。

その中で,ここはちゃんと押さえておかなければいけない,ということについて書いておこうと思います。
残念ながら理論についてちゃんと理解しているわけではないので,ユーザーとして知っておかなければならないこと,という視点から書いてみます。

私が大学,大学院で習ってきた心理統計は検定統計量とp値によって検定するというものでした。
調査して,(昔はSAS)SPSSで分析をして,p値が0.05とかもっと小さい値だと「お,有意差があった」と嬉しい気持ちになって論文に着手する感じです。もう少し細かく書けば,心理統計は2群間に有意差はない(等しい)という帰無仮説を棄却することができるかどうかを検討する方法なので,仮説が棄却されるということは「等しいとは言えない」ということを実証する作業です。

実はこの考え方に大きな変化が起きているというのが心理統計をめぐる現状です。
変化が起きてどうなってきているかというと,検定統計量とp値だけではなく,「効果量を示しましょう」ということです。
これまでの統計の考え方では,調査の対象となったサンプルの数(N)の影響がとても強くて,Nが少ないとそこに1つ,新しいデータが加わることで結果がひっくり返ってしまうようなことが起こり得ました。平均値も標準偏差も同じなのに,サンプルの数が違うと検定の結果が大きく異なり,Nが多いと有意差が出やすく,少ないと出にくいという傾向にありました。そこで,サンプル・サイズによって変化しない,標準化された指標である効果量(effect size)を用いようということです。


アメリカ心理学会の研究論文投稿規定では,2005年2001年(APA Publication Manual 第5 版)にはそのことが規定されていたようですが,日本心理学会でも2015年から効果量を明示することが投稿規定の中に付け加えられました。

じゃぁ,効果量ってどうやって求めたらいいの?ということになりますが,そのあたりのお話は水本,竹内(2010)効果量と検定力分析入門ー統計的検定を正しく使うためにー」という論文(外国語メディア学会関西支部メソドロジー研究部会)でわかりやすく説明されています。(英語教育の分野で心理統計の方法論が進んでいることにも驚きました)

効果量を算出するソフトもいくつか開発されていて,フリーソフトもあるようです。
札幌学院大学 葛西先生のホームページ:http://www.relak.net/psy/power/p4.htm(前掲の水本らの論文に詳しい使用方法が示されています)
関西大学 水本先生のホームページ:http://www.mizumot.com/stats.html(Effect sixe calculationからエクセルのマクロを用いたソフトがダウンロードできます)

効果量,まだ多変量解析の結果にまでは求められていないようですが,近いうちにいろいろな学会でも記載を求められるようになりそうです。ちなみに,この先の動きとしては,ベイズ統計が多く採用されるようになっていくそうです。

効果量を用いるということは,臨床的な調査研究をするときに,どうしてもサンプル数が集められないためにこれまでの統計手法では有意差が認められなかったものを,有意差はないが効果量が大きいという視点から考察を進めることも可能になると思いました。実際に,そういう研究も見られるようですね。

まだ私自身もわからないことがたくさんです。
いろいろとデータを扱ってみながらまた勉強してみます。

ide LAB.

北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室