お仕事フェスタ(キャリア・カウンセリング・プログラム)

キャリア・カウンセリング・プログラム(CCP)に取り組み始めて4年目。
ずっとやれたらいいなと思ってきたことが,少し形になりました。

先週末,施設がある地域の商工会の方たちが施設で暮らす子どもためにお仕事体験の機会を作ってくださいました。
CCPの中でもいろいろなお仕事をしている方たちのお話を聞いてみよう,ということでゲストを招いてお話を伺ったりすることはありましたが,今回は実際に目の前で仕事をしている様子を見せていただき,さらに,その仕事を体験してしまう,という企画でした。

もともとは子どもたちが「大人になるって楽しそう」「将来のことについて考えてみるのも楽しいな」と思ってもらえるような時間を作ろうというところからスタートしましたが,もう1つのねらいにサービス・ラーニングの機会を作るということがありました。施設で暮らす子どもや虐待を受けた子どもたちは自尊心が低く,「どうせ自分なんて…」「役に立たない人間なんだ…」という感覚を持ちやすいということが指摘されてきました。そうした中でBrendtro(1997)は,サービス・ラーニングが彼らの自尊心を向上させるということを指摘しています。

サービス・ラーニングは,サービスをすることと学ぶことを統合させた学習法で,子どもたち自身が学んだことを地域社会で,社会貢献活動として還元するような活動です。
施設で暮らしていると,いろいろな招待行事があります。例えば,企業から夕食に招待してもらったり,プロ野球観戦に招待してもらったりという感じです。
招待してもらうことも子どもたちにとってはうれしいことなのですが,サービス・ラーニングの機会は,子どもたちが誰かの,社会の役に立ったという経験をする機会になります。
なので,一方的な招待よりも,子どもたち自身の学び,成長することにつながるのではないかなと考えています。

今回は施設の心理職の方が,商工会の方との話を重ねて,施設に来てもらってこうした機会を作ってもらうことができました。
あいにくの天気だったのですが,屋外では「とび職」「重機の操縦」「左官」「ペンキ屋」「ガソリンスタンド(洗車)」のお仕事体験,室内では美容室の「パーマ」「カットモデル」と「レストラン」のお仕事体験が提供されました,そのほかにもそうした体験をする様子をプロのカメラマンに教えてもらいながら写真を撮る「カメラマン」の体験もありました。



それぞれの仕事を子どもたちは楽しんでくれていましたが,印象に残ったエピソードがあります。

とび職の方たちが準備してくれた体験は足場を組み,その足場を使って迷路を作るというものでした。
そのために,とび職をやってみたいと希望した数名の子どもたちは朝8時に園庭に集合しました。休みの日なので,眠たそうだし,知らないおじさんたちが何人もいるので,ちょっと緊張した様子です。
子どもたちはヘルメットをかぶり,軍手をして,とび職の方たちの指示に従います。
いろいろな種類の足場の部品の中から指定されたものを指定された場所に運び,足場をくみ上げていきます。
最初は重たい部品を持ち,要領もよくわからずにやっていた子どもたちでしたが,徐々に自分の役割が理解できてきたり,作業の工程がどのようなものかがわかってくると,自分たちで動き始めます。
足場がだいぶ組みあがったころには,子どもたちが
「こっち部品が足りないよ」
「短いの2本!」
「短いの2本ね。あいよ」
という感じで,大人そっちのけで仕事を進め始めました。
さすがにそれを見ていたとび職の方たちも微笑みながら「こりゃ,おとなよりよく気づくわ」「将来はうちに就職だな」と言ってくれていました。
そんな風に最初はいろいろな仕事をするのに要領がわからずに不安げだった子どもたちが,徐々に自信をつけ,自分からいろんなことにチャレンジしようとする姿はとても印象に残りました。

今回は施設の中だけでの取り組みでしたが,今後は実際にそれぞれの職場でそうした体験をさせてもらい,一般の方ともかかわる中で「役にたった」「自分にもできた」という感覚を持てるような機会ができていくといいなと思いました。

今回の取り組みは神奈川新聞に取り上げて戴きました。



ide LAB.

北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室