講演「不適切な養育を受けた 不登校児童生徒に対する支援」

昨日,静岡市子ども若者相談センターから依頼を受けて,「不適切な養育を受けた不登校児童生徒に対する支援」というテーマで講演をしました。
子ども若者相談センターは適応指導教室を運営している市の機関で,不登校の子どもたちが学校に通学する代わりに通ってくる教室を提供していたり,相談の機会を提供していたりする場所です。
毎年,ゼミの学生が実習でもお世話になっていて,学校に行けない,行かない子どもたちや先生方にいろいろなことを学ばせて頂いています。



そうしたご縁もあって,2年ほど前にもお話をさせて頂いたのですが,今回はもう少し愛着の問題に焦点を当てて,という依頼だったので,愛着障害と発達障害に主題を置いてお話をしました。愛着障害と発達障害の子どもたちの行動は表面的には類似しているところがあって,区別することが難しいですが,前者は養育者と子どもの関係性を基盤とする問題,後者は脳の器質的な問題による障害を基盤とする問題なので,問題が起きているメカニズム自体が異なります。
しかし,年齢があがってくればくるほど,両者を見分けることはより難しくなると感じます。
対人関係や情動,行動のコントロールが難しいとそれだけ養育者との関係をはじめ,対人関係においてよい関係を築けないという経験をすることも多くなります。すると,今,目の前で起きている問題が愛着障害にルーツがあるものなのか,発達障害にルーツがあるものなのかわかりにくくなるように思います。

とはいえ,愛着障害の子どもと発達障害の子どもにはちょっとした違いのようなものもあります。
例えば,ネグレクトを経験した子どもたちは抑制型の愛着障害といって積極的に他者を頼るということをしなくなり,関係を閉じてしまう傾向にあるので,自閉症スペクトラムの子どもと似た様子を示すとされています。確かに経験的にもそうだなぁと思うところがありますが,成育歴を確認すると抑制型の愛着障害の子どもの場合にはネグレクトの経験があるのに対して,自閉症スペクトラムの子どもには見られなかったりします。また,常同行動が見られるかどうかというのも大きな違いの1つのようにも感じます。あとは,人や場面によって特徴が異なるか?というのも1つのポイントになるように思います。
また,脱抑制型の愛着障害の子どもたちはその場その場で最も有利な関係を選択しようとするために,周囲の刺激に対して敏感で,AD/HDの子どものように多動で,不注意が強い子どものように見えます。しかし,それでも場面による違いがあるか?(愛着障害の場合には特に対人関係場面でAD/HD様の傾向が強まるように感じます) 挑発的な行動が顕著か?(愛着障害のこの場合には顕著ですが,AD/HDの子でも二次障害が強くなると顕著にみられるようになるので難しいところです)といったところから両者の違いを考えることができます。

とはいえ,やはり両者の間に明確に線を引くことは難しいです。

もう1つ,支援の際に気を付けることとして,発達障害の子どもに対して「構造化」という支援が用いられますが,愛着障害の子どもたちに対してもこの「構造化」は有効な支援の方法となります。その時に,発達障害の子どもに対する「構造化」が認知的側面(視覚刺激,聴覚刺激の統制)であるのに対して,愛着障害の子どもに対する「構造化」は“関係性”を中心に据える必要があると考えています。できるだけ,同じ人が同じ場所で同じ時間に,長期にわたって継続的に関わるということです。でも,実際にはそれはなかなか難しいので,チームアプローチや一貫した関わりといったものが必要になってきます。

先にも書いたように,適応指導教室には不登校の子どもたちが通ってきていますが,中には十分な養育を経験できなかった子どもたちもいるようで,先生方やスタッフと関係を構築することが難しい子どもたちもいるようです。発達障害だけではなく,そうした子どもの特徴をAttachmentという視点から捉えてもらえるようになるといいなと思います。

*この記事では「愛着障害」とまとめて記載しましたが,「愛着障害」という診断を受けた子どもだけを指すのではなく,愛着障害のような,あるいはAttachmentに問題を抱える子どもと少し広く理解してもらえるといいかなと思います。

*愛着障害や愛着障害と発達障害に関連する本としては以下のようなものがおススメです。

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北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室