情緒障害児短期治療施設と教育

年に1度,ある地域の教育委員会から委託された仕事として,情緒障害児短期治療施設の施設内にある分教室の研究授業にコメンテーターとして呼んでいただきます。
昨日はそのお仕事でした。

情緒障害児短期治療施設(情短)とは,乳児院や児童養護施設と同じような児童福祉施設の1つです。
大きく異なっているのは乳児院や児童養護施設が基本的には子どもたちの生活施設であるのに対して,情短は治療施設であるということです。
医師,看護師に加え,心理職も多く配置されています。最近では情短という名称がその実態に合わないので「児童心理療育施設」と呼ぶこともあります。

そもそも情短は昭和30年代半ばに不登校児童への対応を考えて作られました。なので,「短期」という言葉が入っているのですが,現在は入所している子どものほとんどは虐待を経験してきた子どもたちなので,なかなか「短期」で治療というわけにもいかないのが現状です。
情短で暮らしている子どもたちはとても激しい情緒の揺れや行動を示すことが多いので,彼らの暮らしを支えたり,治療をしたりすることは容易なことではありません。

私も臨床心理士として駆け出しの頃,情短に務めさせていただいていた時期がありました。
今回も情短にお邪魔すると,その時の記憶(感覚)がよみがえってきて,ピリッと背中が緊張した感じになりました。
子どもたちが暴れたりしているときの様子は,いくら話してもわかってもらえないものがあります。体験を持っている人同士,なんとなく「ですよね~」と分かり合える感覚もあります。

情短の施設内にある分教室はその地域の学校の情緒障害児学級として設置されていますので,そこで教鞭をとっているのは「ふつう」の先生たちです。
虐待を受けた子どもについての専門的なトレーニングを受けてきた先生というわけではありません。極端に言えば,地域の学校に赴任してきたけど,ふたを開けてみたら分教室の担当だった…という感じもあるのかもしれません。

毎年,その学校の授業実践を1日かけて見せていただいくのですが,自分がやっていたことがあるだけに,すごいなぁという感想が一番に出てきます。
子どもたちの日常にある身近な出来事や物を教材として取り上げながら,授業を進めている様子は,本当に子どもたちに合わせた授業実践だと思います。

教員養成課程の学生たちに虐待を受けた子どもたちのことを伝える時に,私は「他者を信じる力,自分を信じる力に特別な支援が必要な子どもなんだよ」「感情や行動をコントロールする力に特別な支援が必要な子どもなんだよ」と伝えます。情短の分教室で取り組まれているのは,まさにそうした特別支援教育だなぁと思いました。

ただ,教育委員会の方たちと話していて1つの課題になったのは,この分教室で重ねられた教育実践が地域の学校での実践に反映されているのだろうか?ということでした。
地域の学校にも虐待,不適切な養育を受けてきた子どもたちがいます。地域にある児童養護施設から子どもたちが通ってくる学校もあります。そうした学校がこの分教室のことをどれくらい知っているのだろうか?どれくらい学ぼうとしているのだろうか?と思いました。もう少し,こういうところの教育実践を伝えることについて考えてみなければいけないなと思いました。


全国情緒障害児短期治療施設協議会