スナーダイ・クマエ絵画展2016のご紹介

昨日,日本福祉心理学会の大会がありました。
すでにご報告したように今回はポスター発表と自主シンポジウムで話題提供をしました。
自主シンポジウムは「社会的養護を要する子どもの育ちを支える」というテーマでした。
私はこのブログでもたびたび紹介している施設でのキャリアカウンセリングの紹介をさせてもらったのですが,その冒頭,カンボジアのお話しをさせてもらいました。

今年の3月はタイを,昨年の3月はカンボジアを訪ねる機会をいただきました。
タイは児童福祉施策の変遷を理解するための国際比較研究の一環で。カンボジアは大学時代の同級生のNGOの活動を見に行くのと孤児院や学校を見に行こうと思って訪ねました。

孤児院を訪ねた目的の1つは子どもたちが孤児院でどんな生活を送っているのだろう?ということを知ることでした。
日本の児童養護施設では虐待や発達障害などいろいろな問題の影響で,情緒的に,行動的に落ち着かない子どもたちと多く出会います。(勝手な先入観ですが)国としても日本と比べると経済的に豊かではなく,制度的にも十分ではないカンボジアという国ではもっと子どもたちは過酷な生活を送っているのかな,落ち着かない日常を送っているのかな,というのが訪ねる前の印象でした。

ところが実際に行ってみると私の想像とはずいぶんと違っていました。
孤児院の職員さんのお話を聞いてみても,日本の施設のように「自分を傷つけてしまったり,他人に攻撃的になってしまう子どもたちはほとんどいないよ」「落ち着いた生活を送っているよ」というお話でした。2か所訪ねたうちの1か所は日本人の方が施設長をされている孤児院だったので,日本語でもお話しできたのですが,やっぱりそんな感じでした。なんでそうなんだろう?ということも話しましたが,「なんでだろうね?」のままでした。

ただ,カンボジアで1週間過ごして帰りの飛行機の中で考えてみたりして私なりの考えにたどり着くことができました。
あくまでも仮説であって,検証することは難しいと思いますが…

それは,カンボジアの孤児院で暮らしている子どもたちは孤児院で暮らしていることを必ずしもネガティブには捉えていないということが影響しているのかな,ということです。それは子どもだけではなく,おとなも同じかなと思いました。
カンボジアでは家庭で暮らす子どもたちも,いまだに基本的な読み書き,計算を習得すると学校に行くのをやめ,仕事を始めることが少なくないと聞きました。シェムリアップというアンコールワットのある街中でも物乞いをする子どもたちを多く見かけました。しかし,孤児院で暮らす子どもたちは海外の支援も受けながら学校に通い,高校を卒業する子どもたちもいるそうです。そうした子どもたちの中には英語や日本語を身に着け,その力を生かして仕事についていく子どもたちもいるということでした。
要するに,施設で暮らすと施設を巣立った後,社会で生きていくためにこんな力が身に着けられるよ,施設で生活するってこんなメリットがあるよということを子どもたちに示すことができるのかな,ということなのかなと思いました。子どもたちが自分の強み(ストレングス)を意識し,肯定的な将来展望を描くことができること。

そんな風に考えたとき,日本の施設で暮らす子どもとの大きな違いを感じさせられました。日本の施設で暮らしている子どもに,子どもたちの強み(ストレングス)を意識してもらったり,将来展望を描くようなかかわりができているだろうか?
もちろん,過去に負った傷つき(トラウマ)を手当てすることは大事なことだと思います。ただ,どこか,彼らは傷ついていないといけない,彼らは傷つきに目を向けなければいけないという風に私たちおとなや社会が仕向けてないだろうか,ということを考えたのです。確かに彼らは大変な経験をしてきたし,「かわいそう」という感情を向けられる面を持った子どもたちだと思います。でも,そこが強調されることによって,施設で暮らす子どもたちは余計に「自分たちはそうなんだな」とか,無意識的にそうでなきゃいけないんだなと思わされているんじゃないだろうか…と思ったのです。
施設で暮らしている子どもの自尊心についての調査をすると,家庭で暮らす子どもよりも低いことが示されています。もしかしたら,カンボジアの孤児院の子どもは家庭で暮らす子どもと比べても低くはないのかもしれません。これはいつか調査してみたいなと思っています。

シンポジウムの話に戻りますが,シンポジウムではそうした流れから,子どもたち自身におとなになることや将来について,あるいは自分の強みについて考えてみる時間を作ってみようという試みとしてキャリアカウンセリングを始めたんだという紹介をさせてもらいました。


私の研究室には,入ったところに1枚の絵が飾られています。
これは日本人の方が施設長をされているカンボジアの孤児院の子どもが描いた絵です。
勉強をしている姿を描いた絵かな。



訪ねた孤児院の方たちが昨年,日本で子どもたちの絵の展覧会を開かれたときに買ったものです。
日本の児童養護施設では子どもたちが描いた絵を売るっていうことはなかなか考えられないことなのだけれど,こうして子どもたちが描いた絵が展示され,それを見た人が買っていくっていうのもカンボジアの孤児院の子どもたちにとってはとてもいい経験なんだろうなと思います。
とはいえ,別に絵はカンボジアの孤児院の子が描いたものだから買ったというよりも,研究室にこんな絵があるといいだろうなと思ったので買ったわけですが…

そんなカンボジアの孤児院の絵画展が,今年も日本で開催されます。

スナーダイ・クマエ絵画展2016


スナーダイ・クマエの施設長(お母さん),メアス博子さんには昨年度,絵画展の合間を縫って静岡にも来ていただき,みんなでお話を聞く時間を作って頂きました(http://blog.goo.ne.jp/idtomoro/e/ca3b3a08b9a6f8cc991075eb2a0725a1)。
今年は私がいろいろとドタバタしていてメアスさんにもちゃんと連絡も入れられてないので,せめて,絵画展の紹介だけでも…

お近くの方はぜひ。足をお運びください。
素敵な絵がたくさんありますよ。





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北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室