ライフ・ストーリー・ワークとキャリア・カウンセリング・プログラム(改め「キャリア・カウンセリング・プロジェクト」

別の記事でも少し触れましたが,先日,「第5回 ライフ・ストーリー・ワーク交流会」で児童養護施設におけるキャリア・カウンセリング・プログラムを紹介する機会を頂きました。





ライフ・ストーリー・ワーク(Life Story Work;LSW)とは,生い立ちの整理ともいわれますが,ここでは特に社会的養護を要する子どもなど,様々な理由で自分がどこで生まれ,どのように育ってきたのかについて日常生活の中でなかなか触れる機会を持てない子どもたちと一緒に彼らの生い立ちを振り返り,人生を紡いでいく作業のことを指します。近年,日本の社会的養護の世界で最も注目されているアプローチの1つと言えると思います。もっとも,そうした生い立ちの整理をアプローチと表現すること自体に抵抗を持つ方もおられるかもしれません。本来は日常の何気ない瞬間瞬間に自分の生い立ちに触れ,その中で自分とは何者なのか,ということを理解するものなのかもしれません。しかし,特に施設で暮らす子どもたちは身近に自分の小さい頃の様子を知っているおとながいないこともあります。そこで,少し構造的に生い立ちの整理に取り組んだりすることもあるようです。
詳しくはいくつか素晴らしい本がありますので,そちらを参考にしてください。


楢原さんは同い年の尊敬すべき実践者であり,研究者でもあります。


ライフ・ストーリー・ワーク交流会を主宰する山本先生の本です。

さて,私はすでに施設現場での仕事から離れてしまっていますので,LSWに直接的に関わることはありません。
キャリア・カウンセリング・プログラム(CCP)はLSWとは全く別のところで,始めたものです。施設で暮らしている子どもたちが将来の肯定的な展望を持てていないことや持ちたいという気持ちも低いことが調査で明らかになり,そうしたことから実践を振り返ると,施設児童の自立支援が「施設を巣立った後は大変だよ。だからちゃんといろんなことを身に着けておこうね」というスキル訓練に偏っていることに気づきました。もちろんそうしたスキルを身に着けることも大切なのですが,そもそも勉強をしたいと思っていない子どもに勉強するように言ったところで,その勉強が身につかないように,「自立したい」「おとなになりたい」と思えていない子どもに「スキルを学ぼうね」と言ってもそれが身に着くとは思えませんでした。そこで,「おとなになるっていろいろ大変だけど,楽しいこともあるよ」「将来について考えるって面白いよ」という体験を積むことができないかなと思って始めたのがCCPでした。

実践と研究のパートナーである施設の心理士さんと試行錯誤しながら進めてきましたが,その中でCCPがLSWと密接な関係があるんじゃないか,という発想に至りました。確かに,時間的展望ということを軸に考えてみると,過去を肯定的に捉えられるようになることで,現在や将来を肯定的に捉えられるようになるという時間的展望の研究もあります。LSWで生い立ちを紡ぐことは未来を創る作業でもあるのですね。CCPをやっていても,やはり過去を肯定的に(少なくとも否定的ではなく)捉えられるようになってきた子どもはCCPで将来を考えることに積極的に取り組んでくれるように感じました。しかし,それだけではなくて,施設の心理士さんによると,CCPをすることでLSWで生い立ちの整理に取り組んでみたいという気持ちを持ったり,生い立ちの整理に取り組みやすくなる子どもたちがいるような感覚がある,ということでした。つまり,CCPで将来の展望が描けるようになってくると,生い立ちとも肯定的な姿勢で向き合う準備が整いやすくなるかもしれない,ということです。

そんなことがあり,期せずしてCCPについてLSWの研修会で紹介させて頂くことになったのです。
試行錯誤しながら取り組んできたことがこのような形で紹介させて頂く機会を頂けたことをありがたく思っていますし,思っていた以上にCCPは可能性を秘めたプログラムなんだなということに気づかされました。

そんなこんなで,この1つ前の記事にも書きましたが,いろいろなところでCCPの内容を紹介させて頂き,「うちでもやってみたい」という声を頂くようになりました。これまた大変うれしいです。
ただ,CCPは便宜上「プログラム」という言葉を使っていますが,内実としてはプログラムのように設定された活動をするというものではなく,その施設で行われてきた,行われている自立支援の取り組みや日ごろの支援(in care)の内容に基づいて創造されるものです。なので,CCPを始めるためには施設の中にCCPワーキング・グループを組織してもらうことをお願いしています。その中で,その施設での自立支援の取り組みを振り返り,整理してもらうとともに,職員さんたちが子どもたちにどのようなことを体験してほしいと考えているか,子どもたちはどのようなことを望んでいるかをディスカッションしたり,整理してもらいます。そのうえで対象となる子どもたちにどのような活動を行うのがいいのかについて検討を重ねます。この作業がなければ,CCPはCCPとして機能しないと考えます。「人生ゲーム」や「人生設計」などこのブログで紹介してきたワークもこうしたCCPの基本的な理念の上に行われている1つの活動です。ぜひ,1つのワークとして切り取るのではなく,その背景にあるCCPの理念を踏まえたうえで取り組んでいただければと思うのです。

近いうちにこうしたCCPの基本的な理念や取り組み方,具体的なワークについて紹介するものを具体化したいと考えています。その時にはぜひそれを参照して頂きたいと思いますし,お声をかけて頂ければ施設で取り組むお手伝いをさせて頂ければと思っています。
それまでは三菱財団から助成を受けてCCPを開発した時にまとめた報告書を参照して頂ければ幸いです。

三菱財団助成報告書

最後になりますが,長年,「CCP = キャリア・カウンセリング・プログラム」と名乗ってきましたが,どうも「プログラム」というのが気に入らないので(今更ですが…),「CCP = キャリア・カウンセリング・プロジェクト」と改称することにしました。
どうぞ,今後ともCCP(キャリア・カウンセリング・プロジェクト)をよろしくお願いいたします。



静岡大学 教育学部
井出研究室(http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/~etide/index.html) 

ide LAB.

北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室