日本心理学会@久留米大学

日本心理学会第81回大会に来ています。
心理学会は大きな学会で,さまざまな領域の研究発表や講演が行われています。

今回は「児童養護施設児童にとって将来の夢は自尊感情を育むことに繋がるのか」というテーマでポスター発表をしました。



児童養護施設で暮らす子どもは程度の差こそあれ,生い立ちの中で様々な困難を経験しています。そうした子どもたちに対しては過去のトラウマに焦点を当てた治療が行われてきました。その一方で,彼らが施設を巣立ち,社会に自立していくための自立支援は,様々な事情(マンパワーの不足や方法論の欠如など)もあり,十分に行われてきたとは言い難い状況にあります。

これまでの研究で,施設で暮らす子どもたちは将来への肯定的な展望を描けないばかりではなく,将来のことについて考えたい,おとなになりらいという気持ちが低いことが示唆されてきました。つまり,自立支援は彼らへの支援としてとても重要であるということです。

施設での支援はin care(日々の生活の中で行われる支援),leaving care(自立に向けた支援),after care(自立後の支援)によって構成されるとされてきました。しかし,個人的にはleaving careは施設を巣立つ直前にだけ行われるものではなく,in careと連動して行われる必要があり,徐々におとなになる準備をしたり,将来への展望を描いたりすることができるようになることが必要であると考えてきました。

そこで,今回の研究では,彼らが将来への展望を持つことや持とうとすること(時間的展望)と,自尊感情がどのように関連しているかについて検討しました。特に,肯定的な将来展望や将来への志向性が自尊感情を高めるというメカニズムを実証することに焦点を当てました。

結論として,施設の子どもも,家庭で暮らす子どもも肯定的な将来展望を描くことや,描こうとする気持ちが高まることは自尊感情を高めることにつながるということが明らかになりました。ただし,家庭で暮らす子どもに比べて,施設で暮らすこともはそのメカニズムが限定されているということも明らかになりました。

しかし,将来展望を描くことや描こうとする気持ちが高まることは確かに自尊感情に肯定的な影響を与えていました。
つまり。従来,leaving careとして位置づけられてきた自立支援は,子どもたちの今にも肯定的な影響を与えているということです。
もう少しかみ砕いて言うと,施設の子どもたちに対して(家庭で暮らす子どもも同様ですが),肯定的な将来展望を描けるような支援を行ったり,将来展望を描きたいと思えるような支援を行ったりすることは,今,現在の子どもたちの生活にも肯定的な影響を与える(治療的な効果がある)可能性が示されたということです。このブログでも報告していた,キャリア・カウンセリング・プロジェクト(http://blog.goo.ne.jp/idtomoro/c/5653005451543be3afc025216cb73b38)のような取り組みは子どもたちの自立に向けた手助けになるだけではなく,今の生活の安定にもつながる可能性があると言えます。

ただ,この研究にはまだまだいろいろな穴もあります。
今回はそうした穴についてもコメントを頂きました(心理学会は実証研究に強い方が多いので,ありがたいです)。
もう少し,理論的に成熟させていく必要があると思いました。
また,施設における心理的援助において,過去に焦点を当てるばかりではなく,こうして将来や現在に焦点を当てるアプローチの必要性について,同意して頂くようなコメントを頂けたことも心強かったです。
科学的な検証は地道な作業ですが,少しずつ積み重ねることが必要ですね。


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北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室