論文「SD法による子どもの多様な家庭的背景に対するイメージの比較検討」

福祉心理学研究 第15(1)に「SD法による子どもの多様な家庭的背景に対するイメージの比較検討」という論文が採択されました。
この論文は,大学院の授業で院生と一緒に取り組んだ研究です。

大学生に対する調査をもとにして,様々な家族に対する社会的なイメージを測定することを試みたもので,理想の家族を基準とした時の「施設」「里親」「不和」「離婚」「再婚」「貧困」「死別」といった家族のイメージを明らかにしました。
イメージは「きずな感」と「柔軟性」という2つの軸から測定しました。

その結果,離婚,再婚,貧困の家庭はお互いに近い位置にあり,きずな感は理想の家族とそれほど遠く離れてはいませんでしたが,柔軟性は遠く離れ,柔軟性に乏しいというイメージを持たれていることが示されました。また,死別の家庭も同じような傾向でしたが,きずな感は離婚,再婚,貧困よりも理想の過程に近いことが示されました。
もっとも理想の家族から遠く離れていたのは不和の家庭で,柔軟性に乏しく,きずな感も弱いことが示されました。
社会的養護に目を向けると,施設に対するきずな感は離婚,再婚,貧困の家庭とあまり違いがありませんでしたが,柔軟性が強い(放任的ということ)ことが示されました。里親家庭に対しては理想的な家庭と大きなイメージの違いは見られませんでした。

この研究が明らかにしたのは,あくまでも他者がそれぞれの家庭に対して抱くイメージであって,それぞれの家庭が本当にそうなのか,とは異なります。ただ,社会が抱くイメージ(ステレオタイプ)はそれぞれの家庭が社会的文脈の中でどのように位置づけられているかということを知る手掛かりになります。
例えば今回の研究の結果に基づくならば,施設という家庭のイメージは放任主義的な環境というようなことなので,施設の子はしつけがなっていないとか,ルールを守らないというステレオタイプに繋がっている可能性があると考えられます。

貧困家庭で育つ子どもたちのキャリア形成に関する研究では,労働者階級や貧困家庭の子どもたちは社会的な文脈の影響を受け,自分たちは権利を主張するに値しないという「制約の感覚」を持つ傾向にあるということが指摘されています(Lreau,2003)。貧困家庭以外にも,今回の研究で明らかになった家庭に対する社会のイメージが,子どもたちの育ちにどのような影響を与えているかについて検討する必要がありそうです。また,里親家庭は,ポジティブに見られているようですので,社会的な偏見を受けにくい可能性があるということも言えるかもしれません。