【研究レビュー】公的なケアを受ける子どもたちが義務教育を終えても教育を受け続けるためには…

ヨーロッパで行われた研究に「YiPPEE project」というものがあります。
Young People in Public Care Pathways to Education in Europeの頭文字をとったものです。



このプロジェクトは公的なケアを受けて育った若者が義務教育終了後も継続して教育を受けることができるようにするためにはどのようなことが必要かを明らかにすることを目的として行われてきました。日本でも,社会的養護の子どもや貧困家庭の子どもが高校や大学等の高等教育を受けない傾向が強く,結果的に社会的に弱い立場となり,貧困の連鎖などが起きているということが指摘されてきました。
子どもたちの自立を進めていくためには,そうした公的なケアを受ける子どもたちが教育を受け続けるにはどうしたらよいかについて考えることは非常に大きな課題であると言えます。

"YiPPEE Project: Young people from a public care background: pathways to further and higher education in five European countries"はこのYiPPEE Projectの成果をまとめた報告書です。

この報告書はそのまとめとして,公的ケアを受けてきた若者が教育を受け続けることを阻害する要因と促進する要因を示しています。
促進要因は「個人レベル」のものと「システムレベル」のものに分けられて報告されています。

個人レベルの要因としては,
・親とは異なる生活に対して強い動機づけられていること
・レジリエンスと自己効力感が高いこと
・源家族の教育や学歴を尊重していること
・措置先から個人的な支援や助言を受けていること
・学校でうまくやりたいという気持ちを持っていること
・高い意欲があり,未来志向的であること

システム的な要因としては
・公的ケアと教育が緊密に連携していること
・ソーシャルワーカーが措置先を決定する際に教育について優先的に考えていること
・里親と教育者(pedagogue)が教育を重視し,情緒的で実践的な支援を提供していること
・公的ケアや学校環境の変化が少なく安定していること
・ケアシステム外の人との一緒に過ごしていること
・ケアの中やコミュニティの中にロールモデルが存在していること
・余暇活動や地域生活に参加するサポートがあること

が挙げられています。

これまでに私が取り組んできた調査の中でも重視してきたポイントと重なるところがたくさんあるなと思いました。
たとえば,最近はキャリア・カウンセリング・プロジェクト(CCP)の取り組みの1つとして,地域で働くおとなの姿に触れてもらうために『お仕事フェスタ』を開催したり,休日に旅行に出かけることについて考えたりすることを取り入れ,ロールモデルに触れたり,余暇の過ごし方について考えたりしてきました。
また,別の取り組みとして,社会的養護と教育の連携,連動についての調査や実践もやってきました。

日本ではなかなか体系化されて実践や研究が行われませんが,1つ1つの実践や研究がもう少しつながって,体系化されていけばいいなと思います。