日本心理臨床学会第38回大会@よこはま

横浜で開催された日本心理臨床学会第38回大会@パシフィコ横浜に参加してきました。

初日に自主シンポジウムを開きました。
今年度中に公刊される予定の「Reaching Resilience: A Training Manual for Community Wellness」という本を翻訳した仲間とのシンポジウムでした。



この本の著者はPatricia a Omidian(Patさん)という医療人類学がベースにある方です。
Patさんは,いろいろな紛争地域や被災地域などに医療人類学者としてフィールドワークに行く中で必要に迫られて介入プログラムに取り組むことになった時に,Focusingに出会い,Focusingを使いながらコミュニティを元気にする取り組みを重ねて来られたそうです。
先に介入プログラムがあって,それを現地に持ち込むというのではなく,その人の内的な感覚にアクセスするFocusingを用い,現地の人たちの想いやその時の文化などを大事にしながら,そこで必要な支援を創造するという取り組みが描かれています。

企画者の高橋さん(福島大学)に翻訳に誘ってもらった時,レジリエンスのことも研究しているし... と思って参加させて頂いたのですが,中身が理解できてくるにつれて,本当に興味深く,レジリエンスだけではなく,これまで自分がやってきたことととても重なることだなぁと思わされています。

今回はこの本の1章を担当した吉川さん(沖縄大学)に話題提供をしてもらい,それを飯嶋さん(九州大学)に文化人類学の視点からコメントしてもらって話を深めていこう,という企画でした。
吉川さんは沖縄のおじぃ,おばぁと一緒に戦争体験について語り合う場を作ってきた人なので,本の内容だけではなく,そうした実践とのつながりなどについても触れてくれました。
飯嶋さんはアボリジニのコミュニティで一緒に暮らした時の話など,文化人類学がコミュニティや人にどうアプローチするかという話題や臨床心理学ではどうなの?という疑問を出してくれました。

その後はフロアも交えてのお話になりましたが,文化人類学と(少なくとも私たちがやってきた)臨床心理学にはずいぶん共通するところがあって面白い,刺激になるということがわかりました。昔から文化人類学にはとても興味があったので,こうして刺激をもらえることはとても嬉しいことでもあります。

ただ,違いもありそうです。
別の機会に,社会的養護を話題にして飯嶋さん,高橋さんともっと深めてみる予定です。
https://www.facebook.com/events/2317998518474927/






で,学会から帰る前にもう1つ寄っておきたいところがあったので,都内に行きました。
以前,カンボジアに行った時に見学させて頂き,お話を聞かせてもらったシェムリアップの孤児院“スナーダイクマエ”の絵画展です。
代表のメアスさんにはキャリア・カウンセリング・プロジェクトの本にもコラムを書いてもらいましたし,今回の学会期間中にトークイベントでもやりたいと思っていたのですが,残念ながら実現には至りませんでした…。



毎年,東京を始め,数か所で絵画展を開かれているので,時間が合えば伺っています。
子どもたちの描く絵の色使いがとても楽しくて,気に入ったのがあれば買って帰ります。
今回も1つ頂いたのですが,それぞれの絵には描いた子どもの名前,年齢,小さな顔写真が付いています。
絵を頂いたというより,子どもの一部を頂いたという感じもします。

カンボジアに行った時には孤児院の他にも田舎の村にホームステイをさせてもらいました。
そこで暮らしていた子どもたちにお土産としてクレヨンとクロッキー帳を持って行って,一緒にお絵かきをしようと思っていました。
ところが目の前にクレヨンや紙を並べると,子どもたちは困った表情をしました。
どうしたのかな?と思いながら,言葉は通じないので,ジェスチャーでこうやって書くんだよ,と近くに落ちていたはっぱを描いて見せました。すると子どもたちは私が描いた葉っぱの絵を描きました。
自由に,好きなものを描いていいんだよ,と一生懸命伝えましたが,なかなか自分で好きなように描くことはしませんでした。
後で聞いてみると,田舎の村の子どもたちは普段から絵を描くことがないし,学校にも美術の時間がないから,どうしたらいいかわからなかったのかもね,と言われました。

その後でスナーダイクマエに尋ねると部屋一面に子どもたちの色彩豊かな,自由に描かれた絵が貼られているのを見て,とても驚きました。

絵画展では子どもたちが自由に描いた作品が額縁に入れられて展示されています。
1つ1つの絵がとても素敵な作品で,きっと子どもたちは行ったこともない日本という国で自分の描いた絵が,そんな風に額縁に入れられて展示されていることを想像して誇りに思っているんじゃないのかなと思います。

カンボジアの孤児院で暮らしている子どもたちも虐待やDVなど生い立ちに困難を抱え,様々な理由で家族と暮らすことができない子どもたちです。でも,私はメアスさんが絵画展を始め,いろんな機会を通じて子どもたちが持つ可能性に光を当てながら子どもたちの暮らしと育ちを支えているように見えています。日本の施設で暮らす子どもたちにもそうしたことが伝えられるようにならないといけないのだけれど,まだまだ十分ではないなぁとも思います。

今年は東京での開催は今日で終わりだそうです。
でも,この後,和歌山,大阪でも開催されます。
お時間がある方はぜひ,足を運んでみて下さい。