2ヵ月人生ゲーム

今年は3つの児童養護施設で年長児童を対象にしたキャリア・カウンセリング・プログラムを実施しています。
高校を卒業すると,施設を巣立ち,自分の力で生活していかなければならない施設の子どもたちと一緒に,将来のについて考えるプログラムで,毎月1回,いろいろなワークを取り入れながら進めています。3年前に三菱財団の助成を受けて取り組みはじめ,内容をバージョンアップさせながら続けることができています。

そのワークの1つに『2ヵ月人生ゲーム』というものがあります。
私が大学院生時代に初めて施設心理職をさせて頂いた時に,職員さんや子どもたちと人生ゲームをして,その時に人生を語り合ったのがとても楽しかったという記憶があったので,もっと施設の子どもたちにあったゲームを作ってみよう,というところから始まりました。
この『2ヵ月人生ゲーム』も3年目を迎えてかなり内容が充実してきました。施設の職員さんたちも力を入れて独自の進化も見られます。そろそろ売れるんじゃないか?とも思うくらいに精緻化されてきました。



人生ゲームとはいえ,舞台はチープなコピー用紙の上です。本家の人生ゲームのような厚み,デザイン性はありません。
子どもたちは人生ゲームに参加する前に,施設を巣立った後に住みたいと思う賃貸物件を実際の賃貸情報誌から選びます。
今年は比較的現実的な子が多く,高くても6万円程度。過去には12万円のマンションを借りた強者もいました。



ゲームは1日ずつ,全員揃っていろいろなイベントを体験しながら進みます。
1日ごとにサイコロを振り,指示されたイベントについての説明を聞き,発生したお金を支払っていきます。
例えばある日は,「偶数の人は,お葬式に参列することになりました(-5000円)」という感じです。
「お葬式に出る時に気を付けることは?」「どうして5000円もかかるの?」ということを子どもたちに問いかけ,職員さんたちが自分の体験も交えながら解説していきます。

子どもたちに与えられたお金は,毎月のお給料。高卒社会人の平均的な月収を参考にして15万円程度。そこに手当てがついたり,もろもろ引かれたりして,手取り14万円。子どもたちは給料がそのまま手元に来ないということも学びます。



そのお金から家賃を払い,光熱費を払い,携帯電話代を払い...
恋人ができたり,残業手当をもらったり,キャッチセールスに引っ掛かったり,お見舞いに行ったり...
結婚式に行くと,一気に財布の中が厳しくなる現実を知り,ゲームとわかっていても,手元のお金がなくなると不安になり,無口になり...
そんな中,ボーナスがもらえたり,宝くじがあたったりすると一気に生活が楽になって,気持ちも明るくなったり...
生活を楽しむことも大事だけど,やっぱりお金も大事だと痛感する子どもたち。
「やっぱり恋人はいた方がいいよね」「いや,恋人いるとお金かかるよね」というディスカッション(?)も生まれ... 恋人にお金がかかり「恋人いらねー」という叫び声もあがり(笑)
見ているこっちも子どもたちの一喜一憂する姿に笑わせてもらいながらゲームは進みます。





でも,中にはとうとうお金が支払えなくなってしまう子も出てきます。
そんな時,どうすればいい?という問いかけと共に,「不要な日用品を売る」「友達にお金を借りる」「食事を抜く」などなんとか乗り越える選択肢についても考えてみます。中には借金の取り立てを体験する子も...





このゲームは最終的にお金がたくさん残っていた人が勝ち,というものではありません。
子どもたちもそのあたりは良くわかっているようで,ゲームが終わって誰が一番お金持ちか?という話もひと盛り上がりしますが,ゲームの内容の感想を言いながら部屋を出ていきます。

あっと言う間の2時間。
今回は施設の職員さんたちが盛り上がって,ゲームの中にいろいろなオプションが付け加わっていました。
まぁ,子どもたちは1つ1つのライフイベントを細かくは記憶していないだろうけれど,どうしても,施設の子どもたちと将来を話す時,深刻なお話,厳しい現実のお話をしなければならないことが多いので,笑いながら少しでも将来のことについて話し合い,考える時間になっていればいいなと思います。

あ~。楽しかった。

ide LAB.

北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室