施設心理職の教育,育成について

佐賀大学の若本純子先生から『児童養護施設心理職の職務内容と入職後の専門教育の現状』という科研費の報告書を頂きました。大変興味深く読ませて頂きました。



10年近く前に児童養護施設,乳児院心理職の活動状況,活動内容についての詳細な全国調査を行いました。
それまでにも規模が限定された調査はありましたが,詳細な分析はありませんでした。
その調査をしたのが,心理職が施設に配置されて10年ほど経過した時だったと思います。それからさらに時間が経過しているので全国の施設心理職の状況も変わってきているのかなと思っています。

今回,若本先生から頂戴した報告書に書かれている内容は,特に施設心理職に対してどのような教育が提供される必要があるかというところに焦点を当てたものです。大学・大学院における養成に加え,入職後,必要を感じてからなど施設心理職がどのような教育のニーズを持っているかを示してくださいました。

個人的に,特に興味をひかれたのは「グループアプローチ」と「進路支援・キャリア支援」についての評価の部分でした。
施設心理職は「グループアプローチ」についての教育を「入職後ニーズに応じて」と「在学中」に必要だと評価しています。私は,施設臨床では集団を扱えるかどうかがとても大切だと考えているので,そのように評価に分かれているのは面白いなと思いました。大舎制のような集団の色が濃い施設の心理職の方がグループアプローチの教育的ニーズは高いのでしょうか?そのあたりの分析は示されていませんでした。
また,「進路支援・キャリア支援」については児童養護施設の重要な役割の1つである「自立」に対する必要性があまり高くないのだなぁということを感じました。私がこれまでやってきた調査では,心理職が「治療」という枠組みから施設に入るとケアワーカーの方たちとぶつかってしまうことがあるので,むしろ「自立支援」という枠組みから入る方が入りやすかったり,ケアワーカーの仕事とぶつかりにくかったりするのかなとも思ったりします。

若本先生の調査は多岐にわたる教育的なニーズを拾ってくださっているので,今後,どのように施設心理職が養成されていく必要があるのかを考える大きなヒントになりました。

抄録は若本先生の所属大学のリポジトリで公開されているようです。
http://ci.nii.ac.jp/naid/120005952607

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北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室