【自立支援に関する本の紹介】(論文)児童養護施設の自立支援プログラムに対する評価測定

児童養護施設の子どもたちの自立や自立支援に関する書籍は,実はいろいろあります。
ただ,私が読んだ印象では,スキル(「生活指導」「学習指導」「金銭管理の意識づけ」「対人関係の支援」)を中心にしてこう言ったことをやりますよということを述べているものがほとんどで,具体的な解決策を示しているものはほとんどないという印象です。

具体的な解決策が示されていない,というのはそれが難しいからだと思うのですが,それでも,もう少し具体的に問題点を示し,それに対する解決策を示していかなければいけないと思うのです。

今回は施設児童の自立や自立支援をめぐる課題について参考になる論文を紹介してみようと思います。「児童養護施設の自立支援プログラムに対する評価測定」畠山由佳子(2002)関西学院大学社会学部紀要,91,p137-148です。




この論文では,自立能力がどれくらい達成できているかを測定する尺度の作成が試みられています。自立を達成する能力はTangible skills(具体的なスキル)とIntangible skills(抽象的なスキル)に分けられるという視点から,「職業」「経済」「パーソナリティ・人間関係」「生活技術」「自立に対する意識」「健康」という6つの領域に関する自立を測定する尺度が作成され,施設退所者の回答をもとにして自立のパターンを検討しています。この尺度は,退所者の自立能力を測定する方法として役立ちそうです。

さらに,その結果そうした自立能力がどのような要因の影響を受けているかについての分析も行われており,結論として,調査対象となった施設における自立支援を目的とした援助は,退所者のバランスをとれた社会的自立を高めているとは言えなかったと結論付けられています。
サンプル数が少ないという問題もありますが,自立支援の効果を実証的に検討した貴重な研究だと思います。

この論文の中で,畠山は施設児童の自立を「発達上の自然な過程ではなく,すでに『法律上で認められたもの(act)』であり,『期限切れ(deadline)』であるという点が,家庭で育ち,家庭から巣立っていく子どもたちとは違う」と述べています。これは本当にその通りだなと感じます。少しずつ施設児童が高卒後に進学することに対する支援も広がってきていますが,そうした進学の保証は学力やスキルを身に付けるだけではなく,その後の生き方を模索したり,施設外の仲間との出会いを促進したりすることで,その後の自立の大きな助けになると思うのです。

施設児童の自立は,施設内の自立支援だけではどうしたって完結しようがありません。
家庭で育ったとしても家庭からの自立は親と子の関係だけの問題ではなく,周囲の環境に大きく影響をされます。
自立支援を単なるスキルトレーニングだと捉えずに,もう少し広い視野で捉えたり,子どもの目線から捉える必要があると思います。

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北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室