東北を訪ねて

静岡県臨床心理士会の仕事で、福島県の帰還困難地域を訪ねてきました。これは静岡県臨床心理士会が受託している福島県からの県外避難者支援の活動の一貫として、徐々に帰還が進められている現地の状況を理解するために組まれたスタディツアーでした。その後,知り合いがスクールカウンセラーとして働く岩手県陸前高田市を訪ねて,現地の適応指導教室などを見てきました。

1日目は福島県庁を訪ね、その後、相馬のメンタルクリニックを訪ね,発災直後から地域での活動に関わってこられた臨床心理士のお話を伺いました。「心理として」というよりも,「人として」やってきたことが多かったということで,「やっと最近,心理の仕事をするようになってきたかな」というようなことをおっしゃっていました。
その後,相馬から福島第一原発の近くを海岸線と並行して走る国道6号線を南下し,いわき市に向かいました。途中,被災した直後の姿をとどめている学校の様子や帰還困難区域,遠くに第一,第二原発を見ながら走りました。

2日目は実際に帰還困難区域の中に入らせて頂き,町の様子を見せて頂きました。正直,町は荒廃していて,本当にここに人が戻ってこれるのだろうか,と思いました。それでも一方で,地域を通り抜ける線路は復旧が進んでいたり,規制が解除されたところには大きなショッピングセンターができていたり,コンパクトタウンと言われるこれまでの集落よりも小さな,狭い場所に家を集めた街づくりが進められたりしているのを見ると,長い時間をかけても復旧,復興していくんだなぁと思いました。ただ,避難されている方たちのことを思うと,複雑な,いろいろな気持ちが湧いてきました。








3,4日目は震災後,沿岸支援の拠点となった遠野を通り,陸前高田に向かいました。震災1年後にがれきの片付けをお手伝いするために大船渡に向かう途中で通り抜けた場所です。町の中はひっきりなしにダンプが通り,土を運んでいました。津波で浸水した場所をかさ上げして,新しい街を作るためです。高台には仮設住宅や復興団地が作られたり,作業員の方たちの宿舎があったり,人の暮らしを感じました。レストランや居酒屋さんも営業していて,おいしい海産物を頂きました(ホタテは絶品でした)。





また,岩手大学と立教大学が設立しているGlobal Campusも見学してきました。ここを拠点にしていろいろな研究が行われているのですね。帰りは,陸前高田から少し南下して,宮城県気仙沼から電車に乗って一ノ関に向かい,新幹線で帰りました。以前,沿岸を走っていた線路はBRTというバスを使った路線に代わっていました。





東北3県を回ってみて感じたことは,やはり,福島の沿岸は全く別の場所だなということです。程度の差はあっても宮城や岩手の沿岸地域は復興に向かうエネルギーを感じました。しかし,福島の帰還困難区域に近づくにつれ,震災直後のままの町が残され,時が止まったかのようでした。そして,汚染された土を詰めた袋が至る所に留め置かれていました。
帰りたいけれど,帰れない。帰りたくないけど,帰らなくてはいけない。
いろんな思いがあるように感じました。

そしてもう1つ。東北の沿岸地域は結構,辺鄙だということ。東北新幹線や東北道は東北の中心を貫いているので,そこから沿岸までは2時間近くかかります。静岡にも震災がやってくると言われていますが,一言で「静岡」と考えるのではなく,もう少し小さな地域に分けて対策を考えておかなければならないのかなと思いました。

ide LAB.

北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室