乳児院におけるリスクマネジメント

虐待を受けた子どもたちと一緒に暮らしていると,いろいろな問題に直面します。
その最たるものは,子ども同士の暴力であり,場合によっては職員から子どもに対する暴力も起きたりします。
その他にも,子ども自身による自傷行為もあります。あるいは,子どもが遊んでいるときに不意に怪我をしたりすることもあります。
子どもたちの生活を守る仕事をしていると,子どもたちが怪我をしたり,他者を傷付けたり,場合によっては死に至るようなリスクを感じることもあります。
そうした子どもたちが暮らす児童福祉施設に限らず,現代社会においては,いろいろなリスクに対してどのように対処するかということは大きなテーマの1つになっています。

先日,私が関わらせていただいている静岡乳児院(http://www.netinsz.ne.jp/~nyujiin/)で,リスクマネジメントに関する研修を企画しました。
講師は認知心理学の研究者である村越真先生です。
静岡大学の教授で,私の研究室のお隣に研究室がある先生です。

村越先生は,NHKの『爆問学問』で「日本一道に迷わない男」として特集された先生です。
認知心理学が専門の村越先生ですが,もう1つの顔はオリエンテーリングの日本の第一人者であり,トップアスリートです。

山野を目印を頼りに走り回るオリエンテーリング。
そのスポーツの中で,何を目印に,どのように行動するかを実践されて来られた村越先生の認知心理学は(個人的に)最も実践的な認知心理学だと思います。




今回の研修では,SHELLモデルを使って,子どもたちの日々の生活の中に潜むリスクをどのように発見し,どのように評価するかということをワークショップ形式で教えていただきました。



個人的な感想としては,乳児院におけるリスクマネジメントは,子どもと養育者との間のアタッチメント行動と密接に関連しているなぁ,ということです。
リスクに視点を置いて評価すると,大人は子どもに対して「禁止」の原則で関わります。

「そんなことしていたら危ないよ」「ダメ!」「危険なおもちゃは排除しましょう」

一方で子どもたちの好奇心の育ちを保証しようとすると,リスクを犯しながらも子どもたちの遊びを見守ることになります。
養育者を見ていると「~したらダメよ」「危ないよ」とリスクを回避するための関わりを頻繁に,早い段階から発信する養育者もいますし,子どもが高いところに登っていれば,黙ってその近くに行ってすぐに手を差し伸べられるように構える養育者もいます。
日本では,どうも「~したらダメよ」「危ないよ」とリスクを回避するための関わりを頻繁に,早い段階から発信することが多いように感じます。それが結果的にCtype(アンビバレント型)のアタッチメント行動を引き出すことにもつながっているように感じます。

施設におけるリスクマネジメントの重要性はずっと感じてきましたが,こうして専門家を招いて研修をすると新たな気づきが生まれます。
定期的にリスクマネジメントについて考えていく必要があると思いました。

ide LAB.

北海道大学大学院 教育学研究院 臨床心理学講座 福祉臨床心理学研究室